災害遺構について書いた論稿が出版されました。

 

記憶メディアとしての災害遺構―3.11の記憶術」ミツヨ・ワダ・マルシアーノ(編著)『<ポスト3.11>メディア言説再考』(法政大学出版社)pp.3-34.

 

〈ポスト3.11〉メディア言説再考

〈ポスト3.11〉メディア言説再考

 

 もうすぐ東日本大震災から8年。この時期が近づくと、「震災を忘れない」とよく言われます。しかし、歴史を振り返れば、忘れてはいけないはずの過去の災害が、時の経過とともに忘れられ、そして再び災害に見舞われるということが繰り返されてきました。こういった反復を断ち切り、災害を長期にわたって記憶することはいかに可能か?この課題に応えるための新たな記憶メディアとして、3.11以降に注目されたのが震災遺構です。

 

しかし、災害の遺構を保存して記憶に資する試みは、3.11よりも前から行われていますし、震災に限るわけでもありません。そこでこの論稿では震災遺構の上位概念として災害遺構を位置づけ、雲仙普賢岳の火山噴火遺構の事例に始まる遺構保存の系譜を辿り、3.11以前と以後とで、災害遺構による記憶の仕方ー記憶術ーにどのような違いがあるのかを論じました。

 

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この本は、国際日本文化研究センターでの共同研究がもとになっています。文学・映画/映像・メディア・哲学そして社会学などの研究者からなる学際的プロジェクトで、さまざまなアプローチが展開されています。研究会では、学問的討論の範囲を超えて、研究者間の政治的見解の相違が鋭く顕在化する場面も、時にありました(とくに原発関連で)。編者のミツヨさんが「あとがき」で示唆しているとおり、そのような違いは、おそらく本書にも表れているでしょうが、原発問題のように現在進行形で、かつ複雑な問題を扱う場合、そうなるのはおそらく不可避でしょうし、そのような相違を内包することで、問題の多面性・複雑性をより明確に浮き彫りにする本になっていれば、というのが一執筆者としての願うところです。

ともあれ、このような共同研究を主宰して出版まで漕ぎつけたミツヨさんの名オーガナイザーぶりに感謝です。